平成17年度 青年農業者育成に関する調査研究支援事業報告
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はじめに |
今年度から育成研究会事業計画に新たに組み入れた「青年農業者育成に関する調査研究支援事業」につき報告致します。
事業の主旨は、農業改良助長法の改正により「普及指導員の調査研究」に関してどのような支援ができるか役員会で検討してきました。 目的は、本会会員が実施する青年農業者に関する調査研究に必要な経費の一部を助成することにより、調査研究活動の強化と研究会活動の活性化を推進し、もって青年農業者の育成に寄与することにあります。 今年度の調査研究事業を申請したのは、北海道支部、宮城支部、千葉支部、新潟支部からの4課題でした。以下に、その調査研究内容を掲載いたします。
*北海道支部「青年農業者ネットワーク活動に対する支援方法の調査」
*宮城県支部「農業者と関係機関との連携による農家研修システムの構築」
*千葉県支部「青年農業者の経営者能力開発に関わる評価手法の導入」
*新潟県支部「農業系高校生の農業意識の調査と4Hクラブ活動への活用」
「青年農業者ネットワーク活動に対する支援方法の調査」
北海道支部 西原 良一、担い手部会 |
1 目 的
石狩北部地区(1市1町3村)における「青年農業者ネットワーク活動」に対する支援方法について調査検討し、青年農業者に対する支援方策を確立する。
2 調査研究の視点・内容・手法等
(1) 石狩北部地区の農家戸数は年々減少を続け高齢化が進行しており、若者を中心とした意欲あふれる担い手を確保育成していくことが重要かつ緊急な課題である。
(2) 地区内には約200名程度の青年農業者が点在していたが、「仲間づくり」を主体とした活動は比較的希薄な状況で、4Hクラブ員を除き普及センターと直接的な係わりを持つ機会が少なかった。
(3) そのため、地域青年農業者の中で「仲間づくり」に興味を持ち、活動できる参加メンバーを募り、平成10年にネットワーク(以下:NW)化を図った。本調査では、NW活動を推進するために普及センターがパイプ役として何をすべきかを調査検討する。
(4) 調査方法は個別面談による聞き取りとアンケート調査により、NWの今後の展開方法についての意見要望を確認し、青年が何を望んでいるか把握に努める。また、その内容に基づき農村ゼミナール、交流会等を実施しNW活動を支援する。
(5) 個別調査の体制は、担い手担当者7名と各地域班担当者が連携した。
(6) NW参加青年農業者数の推移
(単位:名)
当別町 | 新篠津村 | 厚田村 | 浜益村 | 石狩市 | 合 計 | |
H10年 | 25 | 19 | 4 | 6 | − | 54 |
H14年 | 49 | 32 | 7 | 6 | 13 | 107 |
H17年 | 54 | 22 | 7 | 5 | 16 | 104 |
※ 石狩市はH13年より北部センター管内へ編入
(7) 調査のスケジュール
*4月:会員の名簿整理
*5月:個別巡回計画協議(個別面談、アンケート内容の検討)
*6月:個別巡回実施(4日間、各日所内3〜4班体制で実施)
*7月:アンケート結果の整理(現況、今後の活動などを整理)
*8月:青年のニーズに対応する農村ゼミナール、交流会の実施及び活動アンケートの整理
*12月:青年のニーズに対応する農村ゼミナール(簿記ゼミナール)の実施
NW活動支援に関わる研修会(普及センター担い手担当者) 講師:石狩北部地区指導農業士・農業士会役員
*2月(予定):青年のニーズに対応する農村ゼミナールの実施及び活動アンケートの整理
*3月(予定):青年のニーズに対応する担い手フォーラムの実施及び活動アンケートの整理
3 個別面談、アンケート調査結果について
(1) NW参加者の平均年齢は31.6歳。聞取り内容は、経営状況と課題、NW活動のあり方、活動内容や分野、情報を受ける手段、簿記の記帳状況、興味のあること等である。
(2) 面談は、6月8日、10日、16日、17日に実施した。
市町村名 | 対象者 | 面談人数(率) | アンケート回収(率) |
当別町 | 54名 | 28名(51.9%) | 29名(53.7%) |
新篠津村 | 22名 | 16名(72.7%) | 16名(72.7%) |
厚田村 | 7名 | 2名(28.6%) | 3名(42.9%) |
浜益村 | 5名 | 2名(40.0%) | 0名(0%) |
石狩市 | 16名 | 13名(81.3%) | 5名(31.3%) |
合 計 | 104名 | 61名(58.7%) | 53名(51.0%) |
(3) 経営内での位置づけは?
■経営主となっている青年は、全体の約21%となっており、規模拡大や新規作物の導入など具体的な計画や実施に取り組んでいる。
■経営参画状況は、約半数のNW参加者が、経 営主との品目分担や労働分担により営農して いる。次期経営主として基礎的な技術を習得中であるメンバーである。
■経営主の指示によって作業している者は約32%である。就農1年から3年目くらいのNW参加者で、作業のポイントや技術内容については、今後基礎的な学習が必要な世代である。
(4) 今抱えている課題や問題点は?
■作物の栽培技術が一番多く、その内容は品質向上や新規作物の導入である。
■次いで、経営についての悩みが多く、経営管理や低コストの課題、改善を希望している。
■基礎的技術の向上については、水稲、小麦、豆類を主とし、施肥設計、土壌分析、防除、機械作業の方法、栽培全般技術などと具体的な記述が多かった。特に若い世代に多い傾向であった。
■土づくりについては、有機物施用による効果や微生物について、土壌診断による施肥設計や土壌病害(麦の病害、土壌消毒)など、幅広い内容への学習意欲が伺えた。
■その他は次のような回答であった。
・作物の価格や販売方法について。
・所得の高位安定する作物について。
・エコファーマー制度について知りたい
・パート雇用を雇うべきか?パート確保。
(5) 青年農業者NW活動への希望はどんな事ですか?(複数回答可)
■現在のままの活動状況で良い
現在行っている、個別巡回、現地研修・講習会、冬期セミナーの行事を継続してほしいとの意見が多かった。
■学習会、勉強会を強化してほしい
作物の栽培技術学習、現地研修会、作業機械関係、農作物加工、経営管理、パソコン活用、今後の農業情勢などの希望であった。
■情報交換の場、交流会を増やしてほしい
市町村をまたぐ活動であるため、意見交換や交流会など仲間作りに対する希望であった。
◎ 今後のNW活動のあり方に対する意見
【活動の内容】
・農業者それぞれの経営形態のため、各ニーズに合わせた内容で行ってほしい。
・新しい品目の話、儲かる話など魅力ある内容としてほしい。
・高収益作物の導入など、自分ではわからない専門技術を知りたい。
・基礎技術情報がほしい。将来の農業情勢など最新の情報提供をお願いしたい。
【活動の形式】
・就農1〜3年目くらいの人達で、初心者研修会をやってみてはどうか?
・座談会的なものが良い(他人の自由な意見を聞ける場作り)
・学習会、勉強会の回数を増やしてほしい。
・作目にこだわらない他市町村の視察が良い。肥料、農薬工場の視察を行いたい。
・他団体(4Hクラブ等)との交流もしたい。交流会は必ず必要である。
・指導農業士・農業士とともに新しい活動展開をしてほしい。
(6) 「農村ゼミナール」のテーマとして希望する分野は?(複数回答可)
■経営関係のゼミ希望が多く、所得向上への前向きな意向が伺えた。
■次いで、主品目となっている水稲、畑作物関係などの品目が上げられた。
■今回の調査で特徴的なのが直売関係、農産加工の項目である。近年増えてきている農産物直売への関心も高まってきており、並んで農産加工への研修希望である。
■その他として、機械関係、流通、クラスター、食育関係などが具体的に記述された。
4 NW活動の方向づけ(活動支援に関わる研修会:12月26日)
(1) 12月に普及センター担い手担当者が、講師に石狩北部地区指導農業士・農業士会の役員4名を招き、NW活動の現況と今後について検討する研修会を開催した。
(2) 研修会で出された意見
◆NWを母体とし、新規就農者、4Hクラブ、新規参入者との結びつきを強化する。
◆NWで日々変わる農業情勢に対応した情報を受け、知識を向上する。
◆NW活動は継続し、興味のある分野は少数精鋭でも対応を継続していくべき。
◆サラリーマンに新人研修はある。農業者にはお節介であっても仕掛はすべき。
◆家族協定などで長期的計画が見えてくると、いつ何をすべきか考えるようになる。
◆本人の意志も尊重すべきだが、親の意識改革がもっとも大切である。
5 具体的な活動展開へ(経営課題内容で農村ゼミナールを開催!)
(1) 第1回農村ゼミナール 「大胆な発想と経営戦略」:8月23日
個別巡回及びアンケート調査結果より、経営改善の現地事例研修会を開催した。
約30名が参加し、地区内農業士2名における水稲基幹農業からの転換事例を視察研修した。その後、パソコンによる経営改善シミュレーション等を行い意見交換した。
(2) 3年継続ゼミナール 「わが家の経営問題解決講座」:12月22日:本年度新規開催
特に経営に強い関心を持つ、若手農業士及び農業士候補者8名に絞り、経営感覚を養う講座を新設した。経営概要書の作成、簿記記帳・経営学習会等を開催していく。
(3) 第2回農村ゼミナール:2月開催予定
NWアンケートの内容を受けた内容で開催するよう、準備を進めている。
6 調査研究の結果
(1) 個別巡回により青年個々の状況把握が十分に行え、現状やニーズが把握できた。
(2) 今年度の青年農業者支援内容は、個別巡回・アンケート調査結果より「経営」に特化した活動内容で進めた。特に3年継続ゼミナールを新設し、重点的に対応していく。
(3) 新たな動きとして、地区指導農業士・農業士会と連携し、夏季現地研修会の開催やNW活動のあり方検討を行うことができた。
(4) 普及センターの活動体制は、担い手担当者が企画立案し、所内地域班スタッフと連携した活動の検討や実践により、総合的な支援を行うことができた。
「農業者と関係機関との連携による農家研修システムの構築」
宮城県支部 宮城県産業経済部産業人材育成課 杉田 邦明 他3名 |
1 目 的
新規就農のための準備として、農家での実習を通じて現場で学ぶことは重要かつ効果的なことである。
県農業大学校においても先進農家派遣研修として、県内の農家で一定期間実習しているが、毎年、普及センターが受け入れ農家の選定・依頼等の任務を負っている。その受け入れ農家は、農業士、農業法人等多岐にわたっている。
そこで、農家研修を今後、効果的・効率的に進めていくために、農業者が自主的に立ち上げる形で受け入れ農家の組織化を進めることなどの取組が円滑に進められるよう、農業者と関係機関との連携による農家研修システムの構築を調査研究する。
2 研修受け入れ農家の意見聴取
これまで研修生を受け入れていただいた農家20戸を対象に、これまでの研修の状況や、今後、研修を効果的・効率的に進めていくためにはどのように進めていくことが必要か等の意見を聴取した。主な意見は以下のとおりである。
農業者が自主的に立ち上げる形で受け入れ農家の組織化を進めることなどの取組についても意見を聴取した。
(1)農家研修について
・18才の青年の長期研修は無理である。目標や目的がはっきりしない段階では何を学ぶか関心がわかず長続きしにくい。
・研修生に知識が少なすぎるなど、一から教える状況では受け入れ側が参ってしまう。そういう場合の研修効果は薄いので、農業大学校等で学びながらの実習が効果的である。
・受け入れ側では家族の協力が重要で、食事等特に女性の負担が多い。生活面での配慮も必要。通いながらの実習も一つの方法である。
・研修先は他産業まで広げて考えるべきである。
(2)農外からの就農希望者について
・最近、農業に魅力を感じている非農家出身が多くなっており、効果的な研修をどうしていくかは問題である。また、実際には農業で成功するのはなかなか難しく、農業の理解をより深めさせることも必要である。
(3)受け入れ農家の組織化について
・そういう考え方は必要である。また、関係機関がそれに効果的に支援できるような仕組みであることも必要である。
・農業者だけではうまくいかないので、関係機関との連携が重要。
3 現後継者育成システムにおける関係者の意見聴取
農業士、行政機関、農業高校の関係者をメンバーに意見交換した。
主な意見は以下のとおりである。
(1)研修受け入れについて
・新規参入希望やUターン多くなっているが、研修受け入れできる方は現実にどれくらいいるのかの把握等受け入れの整理が必要。
・研修は企業等を行き来するようなインターンシップの仕組みが必要。
(2)研修生の意欲と実践力を向上させる研修教育
・自分がどういう経営を目指しているのか、早くから意識付けさせてやるようなアプローチが重要。
・農家研修の中で、やり方次第でこういう経営ができるというのを経験させてやることが重要。
・比較試験を経験するのではなく、販売から生産がイメージできるような経験をもたせることが重要。
・現場の流通を学ぶ必要がある。実践の場が必要である。
(3)研修生の意欲の向上と就農に結びつくネットワークづくり
・研修生の中には、自分の描いているものを学べないでいる人もいるではないかと感じるところがある。
・農業大学校等に入り学び研修することは大事だし、研修先だけではないネットワークを構築できるかが重要。
・就農まで学校が全部自らというのではなく、ネットワークを作ってそういう力によることも重要だと思う。
(4)その他
・研修生の正直な感想(期待とのギャップ等)を参考にして検討するとよい。
4 具体的なシステム構築への提案
これらの意見を参考に、図のとおり仕組みのイメージを提案しており、効果的な農業研修が行われる仕組みづくりに継続して取り組んでいきたい。
「青年農業者の経営者能力開発に関わる評価手法の導入」
千葉県支部 児玉 友孝、斎藤 秀一 |
1 目 的
新たな普及事業の実施を踏まえ、今後の青年農業者育成活動を明確化・効率化するためには、育成目標を明らかにすると同時に、指導対象者の質的変化を具体的に捉えることが、活動成果を広く内外に示す面からも重要となる。
そこで、青年農業者の経営者能力に関する質的変化をつかむ評価手法を提案するとともに、18年度からの現場における本格的な導入をめざす。
2 調査期間
平成17年4月〜平成18年1月
3 調査内容と方法
(1)経営者能力の定義づけと項目の選定
あらたな普及事業における青年農業者育成の位置付けを確認した上で、昨年度実施した調査研究結果(農業経営体育成セミナー(以下、セミナー)研修生の経営者能力獲得に関するアンケート調査とその分析)や、文献を参考に、青年農業者の時期に関連の深い経営者能力の項目を選定し、定義づけを行う。
(2)成長段階の指標化
経営者能力の各項目について、千葉県における青年農業者に対する主要な育成期間(新規就農1〜3年間に当たるセミナー3年間:以下「青年農業者ステージ」と記す)とセミナー研修項目から、成長段階を5段階で指標化する。
(3)青年農業者の経営者能力評価シートの作成
(1)・(2)により、青年農業者が記入式で自らの経営者能力を把握することができる「青年農業者の経営者能力評価シート」様式を作成する。
(4)青年農業者を対象としたプリテストの実施
県内各農林振興センターセミナー担当者の協力を得て、セミナー生に対し、青年農業者の経営者能力評価シートのプリテストを実施する。
(5)青年農業者の経営者能力評価シートによる評価手法の検討
プリテスト実施結果について分析・検討し、経営者能力の項目や成長段階の把握状況等、本評価手法が適しているかを確認する。また、18年度からの本格的な導入の可否について判断する。
4 調査結果及び考察
(1)青年農業者ステージにおける経営者能力の定義づけと項目の選定
1)あらたな普及事業における青年農業者育成の位置づけの確認
協同農業普及事業における青年農業者育成は、基本的課題「農業の担い手の育成及びその将来にわたる確保」に位置づくとともに、望ましい産地の育成・環境と調和した農業生産・食の安全安心の確保・農村地域の振興、の他の4つの課題の視点を有する担い手として育成することが求められていることを再確認した。さらに、県段階において協同農業普及事業実施方針−千葉県−による位置づけを確認した上で、経営者能力の定義づけと項目選定の検討に入った。
2)参考文献から経営者能力の定義づけの確認
木村伸男氏(岩手大学農学部教授)の著書「成長農業の経営管理」から、成長農業に必要な経営者能力や項目の考え方について確認を行った。また、著書の中で引用されている他の専門家の定義についても、経営者能力の定義づけと項目選定の際の参考にした。
3)昨年度の調査研究結果から青年農業者ステージにおける経営者能力の項目の検討
平成16年度の専門技術員調査研究活動において、県下10カ所すべての農業改良普及センター(当時)で実施されているセミナーの総合研修生(就農3年目)に対し、「経営者能力に関するアンケート」調査を実施した(青年農業者育成の研究56号特集2を参照)。
表1に記した経営者能力20項目について、(ア)セミナーを受講するに当たり、習得・成長を期待していた能力、(イ)セミナーを受講することにより得られた能力、(ウ)就農直後と現在の経営者能力、について、アンケートへの記入を通じ、セミナー生が自己評価を行った。
その結果、(6)経営や自分の課題を発見する、(20)交友関係を広げる、(12)栽培技術など、多くの項目において、3年間で経営者能力が大きく向上しており、青年農業者ステージにおける経営者能力の項目として、適当であると判断できた。
その一方で、(15)労務管理、(19)財務処理、(17)購買管理などでは大きな変化が見られなかった。これらの項目は、経営内における実務にあまり携わっていないと考えられ、青年農業者ステージにおける経営者能力の項目としては、あまりふさわしくないと思われた。
表1 青年農業者ステージにおける経営者能力を評価するための「経営者能力20項目」
(1)経営理念を持つ (2)企業家精神を養う (3)決断力を養う (4)好奇心を持つ (5)学習意欲を持つ
(6)経営や自分の課題を発見する (7)ここから計画を立てる(計画立案) (8)計画に基づき実践する (9)情報処理能力 (10)情報収集能力 (11)制度・政策情報の収集と理解 (12)栽培技術 (13)機械操作 (14)生産管理 (15)労務管理 (16)機械・施設の維持管理 (17)購買管理 (18)販売管理 (19)財務処理 (20)交友関係を広げる |
4)青年農業者ステージにおける経営者能力の項目選定
以上の1)から3)の確認、検討を踏まえ、青年農業者ステージにおける経営者能力とその項目として、表2のとおり3つの能力(機能)とそれぞれに5つの項目、合計15項目を選定した。
表2 青年農業者ステージにおける経営者能力 3機能15項目
能力(機能) | 項 目 |
1 経営者意識 | 好奇心・学習意欲・目標設定・経営理念・チャレンジ精神 |
2 経営技術管理能力 | 課題解決・生産技術・役割分担・記録分析・販売流通 |
3 情報管理能力 | ネットワーク・コミュニケーション・情報収集・組織活動・分析判断 |
(2)成長段階の指標化
次に、経営者能力の15項目について、青年農業者像を踏まえ、成長段階を1〜5段階とし、それぞれの段階を「〜できる」・「〜ない」など、言葉による表現で具体的に指標化した。なお、指標化に当たっては、セミナーの研修項目との関連についても考慮した。
(3)青年農業者の経営者能力評価シートの作成
(1)・(2)により「青年農業者の経営者能力評価シート」様式案を作成した。さらに、様式案を各農林振興センターのセミナー担当者に送付して加筆・修正を受け、実際に活用する各センターの担当者との合意づくりを図るとともに、様式の完成度を高めた。
「青年農業者の経営者能力評価シート」を表4−1・表4−2・表4−3に示す。なお、以下では「青年農業者の経営者能力評価シート」を、通称「SKシート」と呼称する。
(4)青年農業者を対象としたプリテストの実施
1)実施方法
平成17年5月から8月に、セミナー生に対し「SKシート」のプリテストを実施した。担当した各センターのセミナー担当普及指導員は、セミナーの研修時や巡回時において、「SKシート」含む記入用紙「あなたの経営者能力をチェックしてみましょう!」を配布し、15項目についてもっとも当てはまる指標(1〜5)を選択するよう、「SKシート」への記入方法について説明した。
プリテストを実施したセンターは10カ所中7カ所、記入者は170名うち有効回答者(すべての項目に回答がある)は150名であった。また、対象者の概要は表3の通りであった。なお、研修生個々により若干異なるが、基本研修生は就農1年目、専門研修生は就農2年目、総合研修生は就農3年目とおおむね判断できる。
表3 プリテスト対象者の概要
基本研修生 | 専門研修生 | 総合研修生 | |
記入者(名) | 89 | 35 | 26 |
平均年齢(歳) | 25.7 | 25.5 | 27.3 |
新規学卒者(%) | 48 | 46 | 50 |
離職就農者(%) | 42 | 49 | 50 |
不明(%) | 10 | 5 | 0 |
農業関係学校出身者(%) | 31 | 51 | 42 |
非農業関係学校出身者(%) | 52 | 49 | 54 |
不明(%) | 17 | 0 | 4 |
2)指標に対する複数回答
成長段階1〜5段階の指標化にあたっては、複数回答にならないように配慮したが、表5のように複数の指標を選択した対象者もあり、平均で7%であった。また、基本→専門→総合と研修課程を進むに従って複数回答率は高くなる傾向が見られた。
表には記していないが、プリテストを実施したセンターにより複数回答の有無が異なっており、記入時の指示により複数回答率は減少すると思われた。また、複数回答をする対象者は、多くの項目で複数回答をする傾向があり、この場合も記入時の指示により複数回答率は減少すると思われた。
複数回答があった場合でも、最も高い指標の値を(到達した成長段階として)採用し、成長段階を判断しても、特に問題は無いと考えられた。今回は、同様の仕分けにより分析・検討を行った。
(5)青年農業者の経営者能力評価シートによる評価手法の検討
1)SKシートにより経営者能力の質的変化は把握できるか
表6に、プリテスト結果のデータを集計し、研修課程(就農年数)と経営者能力獲得との関わりについて整理した。また、図1〜3に経営者能力の項目毎に見た成長段階の割合を示した。
15項目の数値を合計したところ、基本で34.9、専門で36.4、総合で41.8(表6)と、研修課程が上がるに従って、経営者能力の数値も高くなることが確認できた。
プリテスト対象者の職歴や出身学校の比率に大きな差は見られないことから(表3)、新規就農時における経営者能力は、おおむね同様であったと仮定できる。したがって、「SKシート」への記入により、青年農業者の経営者能力の向上の段階を、数値として把握できる可能性が高いと判断できる。
2)15項目毎の評価
15項目毎に経営者能力の数値をみると、表5の評価欄に◎や○を記した8項目については、研修課程が進むに従って数値が高くなっており、本項目に関する能力の向上を数値として把握できると判断できる。
一方、△を記した6項目については基本に比べて総合では数値が高くなっているものの、基本<専門となっておらず、本項目に関する能力の向上を段階的に把握できていなかった。指標の一部修正について検討する必要があると考えられる。
また、×を記した「記録分析」については、基本2.0に対し、総合でも2.0と、能力の向上がまったく把握できなかった。指標の設定やそのレベルを再検討する必要がある。
3)項目毎における指標修正の必要性
各項目毎に、図1〜図3の順に能力段階の割合を見ると、多くの項目で研修課程が進むに従って指標1・指標2の低位の割合が下がり、指標4・指標5の高位の割合が上がってきていることが視覚的に把握できる。
しかし、図1の「好奇心」「ネットワーク」のように、基本研修においても指標1の回答者が10%を切るような項目は、指標のレベルが低いと考えられ修正が必要である。また、図3の「記録分析」「ネットワーク」「組織活動」など、総合研修においても指標5が10%を切るような項目については、先とは逆に指標のレベルが高く、この場合も修正が必要と考えられる。
4)「SKシート」による評価手法の適正判断と本格的な導入の可否について
指標の修正が必要な項目はあるものの、「SKシート」による評価手法の導入により、青年農業者の経営者能力の向上を、数値として把握できることが確認でき、本評価手法は適正と判断できた。
しかし、今回のプリテストは春から初夏にかけて実施されており、質的変化を把握した(基本研修から総合研修までの)期間は実質2年間であった。
そこで、平成18年3月に再度総合研修生を対象としたプリテストを行い、3年間のスパンでの経営者能力の変化について再度整理した上で、一部の項目について指標を再検討したい。
青年農業者育成活動において指導対象者の質的変化を具体的に捉える必要性がある中で、セミナーにおける本格的な実施に向けて、18年度も引き続き「SKシート」への記入による評価手法の検討を続けていくべきと考える。
5)「SKシート」による評価手法の活用における留意点
対象者自らが様式に記入し経営者能力を自己評価する本手法は、従来の普及活動において普及指導員が対象者を評価する手法に比べて、きわめて客観的かつ公正である。
青年農業者が身につけるべき経営者能力が15項目に整理されており、現状を数値として理解することが可能になった。図4の五角形グラフなどを活用して、対象者は自らの経営者能力がレベルアップしていく姿を継続的に把握したり、自らの長所や弱点を認識することができよう。さらに、弱点の克服についても、言葉で表現された指標により、今後目指すべき方向をより具体的に理解することができるであろう。
一方、指導者としては、例えば「○○能力が2.5から3.5に向上した」などのように、個々の数値を安易に活動評価に使用することは厳に慎まなければならない。対象者にレベルアップさせたい項目についての研修内容を、目指すべき指標から具体化するなど、指導内容の向上にこそ活用すべきである。
図4 青年農業者の経営者能力評価シート(SKシート)データまとめ用の図
今回、このような評価手法の検討を通し、青年農業者ステージにおける「経営者能力の細分化」と「成長段階の具体化・数値化」という2つの「物差し」ができたことにより、対象者の変化をつかみ、活動成果を明確にすることが可能となりつつある。
しかし、もっと大切なことは、これからの青年農業者育成活動において、このような評価手法を用いて「何を」「いつまでに」「どこまで」「どのように」の視点で目標設定するとともに、指導対象者と普及指導員との間で、その目標を共有することである。
5 参考・引用文献
木村伸男「成長農業の経営管理」日本経済評論社
児玉友孝「平成16年度農業専門技術員調査研究事業成績書」千葉県農林水産部農業改良課
「農業系高校生の農業意識の調査と4Hクラブ活動への活用」
新潟県支部 山沢 勉、齋藤 由起子 |
1 調査の背景と目的
新潟県には農業高校4校と、農業課程を有する総合高校4校がある。近年、これらの農業系高校では非農家出身の生徒が過半数を占め、在学中から農業への関心が薄くなっていると共に、卒業後就農する生徒が減少しており、多くは進学、あるいは他産業へ就職している。
このようなことから、農業高校生等に対する地域農業の理解促進を図る上での4Hクラブの役割を調査研究すると共に、新規学卒就農あるいはUターン就農を促進し、併せて4Hクラブへの加入を促進するための交流活動等の在り方を検討する。
2 取り組んだ内容
(1)アンケート調査の実施
農業系高校において農業課程を専攻する3学年と県内4Hクラブに加入する青年農業者に対してアンケート調査を実施し、在学段階における農業に対する意識と就農後数年を経過した段階での意識変化を分析した。
ア)調査対象:
* 農業高校および総合高校の農業課程を専攻する3学年1,002人
* 県内の4Hクラブ員(12団体)205人
イ)実施方法:集合調査法(各高校、4Hクラブに調査票を配布、記入後返送)
(2)調査結果の分析と活用
アンケート分析結果をもとに、4Hクラブが農業高校生等に対して行う交流活動等の在り方と、その実践に向けたプロジェクト活動の在り方を検討した。
3 取り組んだ成果
(人、%)
農業高校 | 4Hクラブ | |
回答者数 | 846 | 116 |
回答率 | 84.4 | 56.6 |
男 性 | 424 | 99 |
女性 | 419 | 17 |
不 明 | 5 | − |
農家子弟 | 298 | − |
非農家子弟 | 543 | − |
不 明 | 7 | − |
※4Hクラブ員はほとんどが専業農家子弟である(詳細は実態調査なし)。
(1)農業に対するイメージ
農業高校生に農業や農村生活に対するイメージを訊ねたところ、「農業はやりがいがある」、「動植物を育てる喜びがある」と認めているものの、「重労働」、「休日が少ない」、「儲からない」といったイメージが強いことから、職業として選択するだけの有利性が認められず、就農に至らない生徒が多いと思われた。また、後継者不足という認識も広まっていることが確認された(図1)。
なお、今回のアンケート調査により新潟県内の農業系高校生における農家出身者の比率は35%と1/3程度であることが改めて明白となったが、アンケートの回答における農家・非農家出身間の有意差は見出せなかった。
農業高校生と実際に農業に従事している4Hクラブ員の考え方を比較すると、4Hクラブ員では「休日が多い」と思う人の割合が農業高校生よりも少ないなど、現実の厳しさを反映した回答であった。しかし、「楽しい」や「やりがいがある」と思う人の割合が農業高校生よりも10ポイント以上高くなっていることも特徴的である(図2)。
さらに4Hクラブ員に対しては、就農前後における農業に対するイメージの変化と農業の魅力について記述式の質問をした。
その結果、就農前は親の姿を見て重労働で儲からない、漠然とした自由さなど、農業高校生と同様のイメージだったものが、就農後は現実の厳しさを実感する一方でやりがいを見出すなど、職業として農業に向き合ううちに農業に対する印象が前向きに変化していることがうかがえた。
また、農業の魅力については、「自分のやったことに結果が出る」、「作物を育てる喜びがある」、「自然と密接している」の3点に概ね集約された。
(2)農業高校生との交流活動の可能性
農業高校生に農業イベントへの参加経験と興味のあるイベントについて訊ねた。イベントへの参加経験は22%と低かったものの、有効回答の75%にあたる641名の生徒はイベントに興味のあることが分かった(図3)。
また、女子生徒は全般的にイベントへの興味が男子生徒より高く、特に料理教室や食品加工教室など、「食」に関するイベントに強い興味があることが分かった。
以上のことから、農業高校生の多くが農業イベントに興味があり、きっかけがあれば参加すると考えられる。これらのイベントは4Hクラブ員でも主催可能なものが多く、農業高校との交流活動を図る上で取り組む価値があると思われるが、性別により関心のある分野が異なることから、イベント内容には十分な検討が必要である。
(3)4Hクラブと農業高校の交流活動への支援
アンケートにより得られた結果をさらに補強するため、4Hクラブ員の農場相互訪問研修に地元農業高校生9名を招いて意見交換を行った。
クラブ員の農場を視察し、懇談会を行った。研修会終了後の高校生の感想は「農家は儲からないイメージだったので意外だった」、「思っていたよりも若い人が多かった」、「楽しそうな雰囲気だった」など、予想以上に良い反応で、参加した高校生全員が「またこのような交流をしたい」と回答した。
以上のことから、4Hクラブ員と農業高校生の交流活動は、高校生の農業に対するイメージを改善し、より農業理解を深めるのに効果的であることが分かった。
(4)どうすれば就農者が増加するか?
今回の調査で将来的に就農の意思があると回答した農業高校生は71人(8%)だった(図4)。
また、就農の意思がないと回答した高校生に対して、どのような条件なら就農しても良いと思うか記述形式で訊ねたところ、202名(24%)の生徒が回答した。
前述の農業のイメージを受けて、「儲かれば」という意見が最も多く、全体の28%を占めた。就農しても良い条件は人によって様々であったが、大別すると「安定した収入」、「やりがい・興味があれば」に加え、「休日の確保」、「仕事が楽であれば」などの意見が多かった(表1)。
表1 就農しても良い条件(農業高校生) (複数回答)
就農しても良い条件 | 回答者数 |
儲かる | 69人 |
安定収入 | 21人 |
やりがい・興味があれば | 20人 |
楽である | 13人 |
休日が確保される、多い | 12人 |
実家を継ぐ・実家が農家なら | 12人 |
設備・土地が揃えば | 11人 |
結婚相手が農家なら | 10人 |
楽しければ | 7人 |
その他 | 72人 |
一方、4Hクラブ員に農業の改善点を質問したところ、最も多かったのは「環境への配慮が足りない」で、次いで「農業施策」、「村社会のしがらみ」、「補助金への依存」、「PR不足」、その他に「農業のイメージの改善」、「後継者不足」、などが挙げられた。全体的に、意識改革など農家自身の努力を求める意見が多かった(表2)。
表2 農業の改善すべき点(4Hクラブ員) (複数回答)
農業の改善すべき点 | 回答者数 |
環境への配慮が足りない | 8人 |
国・政策が悪い | 7人 |
村社会・しがらみ | 5人 |
補助金に頼りすぎる | 5人 |
PR不足 | 5人 |
イメージ改善 | 4人 |
後継者不足 | 4人 |
販売努力が足りない | 4人 |
休みが少ない | 4人 |
なあなあで作業するところ | 3人 |
経営感覚の欠如 | 3人 |
天候に左右される | 3人 |
収入が不安定 | 2人 |
その他 | 56人 |
このことから、農業高校生の就農率向上を図るには、悪いイメージで挙げられた「重労働」、「休日が少ない」、「儲からない」といった点について、現状の農業経営を一層改善するとともに、「やり方によっては儲かる=やりがいのある職業である」ことなど、農業への理解を一層促進する必要であると思われた。
労働条件の改善などは、農業関係者全てが取り組まなければならない課題であるが、農業に対するイメージの改善やPRは青年農業者の集団である4Hクラブの役割として積極的に取り組むべきである。
4 反省と課題
4Hクラブの共同プロジェクト活動との一体的な取り組みで、アンケート調査による農業高校生の意識は把握できたが、4Hクラブが農業高校生の農業理解促進の役割を担うよう、分析結果を踏まえた交流活動等の指導を一層進める必要がある。
また、今後4Hクラブが農業高校との交流活動を行う上で、高校側の理解と協力は不可欠であり、そのため高校側に活動の趣旨を十分説明し、新規就農者確保に向けて4Hクラブと農業高校との密接な連携体制を築けるよう、普及のコーディネート力を発揮する必要がある
5 まとめと考察
長岡地域の新規就農者数は毎年10人程度である。離職転入者や定年就農者の割合は年々増加しているものの、新規学卒就農者の確保は難しいのが現状である。
一方、農業高校においては非農家出身者の比率の高まりとともに、農業後継者を育成する役割の低下や地域とのつながりも薄れつつあるのではと懸念された。
農業への理解を促進するために、近年長岡地域の小中学校でも総合学習などで農業体験を取り入れる所が増えているが、さらに踏み込んで新規就農者の確保を図るためには、将来の進路を検討する高校生への積極的な働きかけが必要である。
今回の調査で8割以上の高校生が農業は後継者不足であると知っていたが、4Hクラブが高校生に対し若手農業者の活気のある姿をアピールすることで、地域農業への理解促進が期待できることが伺われた。
また、4Hクラブのプロジェクト活動として農業系高校生との交流に取り組むことで、クラブ員の後継者育成の意識を醸成することも期待できる。
今回の調査を通して、4Hクラブ員は農業系高校生との交流の重要性と効果を理解できたので、今後もクラブ活動の一環として交流活動が継続されるよう指導し、4Hクラブが地域の新規就農者育成の役割も担えるよう、活動の発展に対し支援していきたい。
「青年農業者育成に関する調査研究支援事業実施要領」